印鑑制度編/日本での印鑑の役割

印鑑が逆さまに押してる契約書は有効?それとも無効?

ここでは逆さまに捺した印鑑の効力について解説します。
間違えて、もしくは意図的に逆さまに捺してしまった印鑑は、果たして有効なのか?
印鑑を捺す意味も併せてご紹介しますので、本質からご理解いただけると思います。

Q.印鑑が逆さまに押してる契約書は有効?それとも無効?

まず結論から申し上げましょう。

Q.印鑑が逆さまに押してる契約書は有効?それとも無効?

A.契約書は有効で、無効にはなりません

印が捺してあるかどうかに意味があり、角度は関係ありません。
その理由を正しく知るためには、なぜ契約書に捺印するか?を理解する必要があります。

印鑑を捺す理由は偽造防止

なぜ契約書に捺印するかの理由は、偽造防止です。

名前の部分が印刷物やゴム印、いわゆる記名だけだったら、誰でも複製できちゃいます。
そのため唯一無二の印鑑を押して、お互いに自分の意思であることを証明するわけです。
特に重要な契約では実印を捺し、さらに印鑑証明書を添付すれば、その完全性がさらに高まります。

「誰でも買える100円の印に何の意味があるの?」なんてツッコミが入りそうですが、印があることによって偽造した場合の罪が重くなります。
有印私文書偽造の罪ですね。
そのため多くの重要書類では印鑑が必要になります。
偽装防止が目的である印鑑を、誰でも簡単に入手できる100円のものにするリスクは、ここからもよくわかります。

印鑑を捺す意味は甲と乙で異なる

契約書に捺す印の意味は、甲(確認者)と乙(制作者)とで異なります。

甲)この文書の内容に誤りはありません
乙)この文書は私が作成しました

要するに契約書とは

https://about-seals.suzuin.co.jp/wp-content/themes/quadra_biz001/img/common/no_avatar.png

乙)私が作りましたよ


https://about-seals.suzuin.co.jp/wp-content/themes/quadra_biz001/img/common/no_avatar.png

甲)私はあなたが作った内容を認めましたよ

の相互確認です。
そして認めた印(しるし)として印(いん)を捺します。

意図的に逆さまに捺すこともある

実際の捺印の場面では数々のドラマがあります。
そんな一例をご紹介しておきます。

当時勤めていた金融機関の上司、今となってはとてつもなく偉い方になられていますが、捺印を逆さまに捺しているのを見たんです。
読みやすい認印ですし、普段からきちんとした方ですから、そんなミスを犯すわけがない。
なので理由を尋ねてみると、その捺印に納得していなかったことが分かりました。

誰しも納得いかないことはあります。
組織に属していれば、上からの命令で断れない場合もあることでしょう。
とはいえ、言われるがままに「はいはい」とは捺したくない。
だからあえて「反対」の意思を示す手段として逆さまに押す。

この事例は逆さまの捺印が有効かどうかをわかりやすく示しています。
つまり印鑑の役割は、意思の証明として捺すことですから、上を向いていようが下を向いていようが、契約書を作る上ではなんの問題もないことが分かります。

印鑑の法的重要度

氏名が記名(手書きではなく印刷など)の書類でも、印鑑が捺印されていれば当然有効になります。
ちなみにサイトなどを見ると、重要度は以下のように書かれている場合が多いです。

  1. 署名捺印(手書き+印鑑)
  2. 署名のみ(手書き)
  3. 記名押印(印刷+印鑑)
  4. 記名のみ(印刷)※正式な効力は認められない

しかし弁護士の説明によると、正しくは以下になります。

法的に証拠価値としては、1.2.3.は同じ。

https://about-seals.suzuin.co.jp/wp-content/themes/quadra_biz001/img/common/no_avatar.png

実際の裁判で争われる場合、228条4項「本人の署名」又は「本人の押印」どちらかがあれば証拠として適用されます。
つまり1.2.3.は条文上同じ証拠価値となるのですが、直筆かどうかは筆跡鑑定等が必要にも関わらず、それ自体立証が非常に難しい。
そのため裁判では、実印が押してあるかどうかが最も重要で、署名と記名はほとんど差がない。
つまり実際には直筆かどうかよりも、実印が捺してあるかどうかの1と3が大きな決め手となっています。

怖いのは既製印

上記の事例からわかるように、印鑑が裁判での証拠能力を変えます。

その中でも怖いのは3であることがわかります。
よくあるのは、事前に名前が印刷されている契約書。
そこに三文判などの大量生産の既製印を押した場合でも、有効になります。
これがもし印鑑証明書を必要とするような重要書類の場合、一度上記のような契約を交わして印鑑が簡単に手に入ることがわかれば、新たに違う内容の書き換えることだって原理的には可能となってしまいます。

そのため上下が合っているかどうかを確認するよりも、その印が既製品なのか?作ったものなのか?を確認する方が大切です。

最後に

契約書に印鑑を捺す際、上下を気にする必要がないことが分かりました。
それでもやはり真っ直ぐに捺すことをオススメします。
なぜなら契約には必ず相手がいるです。

今回の事例にもあるように、反対の意思を隠して逆さまに捺す場合もあります。
つまり余計な詮索をされてしまう可能性があるのです。
やはり真剣に向き合うときは、できるだけ真っ直ぐ捺そうと考えるのが心情です。
つまり真っ直ぐ捺すことで、真摯に向き合っている意思が表現されます。

それを知ってか知らずかわかりませんが、友人から保証人を頼まれた婚姻届には、こんな言葉を添えて見事に真っ直ぐに捺印された実印がありました。

「やっぱ自分の決意だからさ、真っ直ぐに押さないと」

契約には角度の意味はありませんが、自分の決意には角度の意味がある気がしました。

 

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